同窓会長 ご挨拶

この度東京農工大学同窓会長を拝命いたしました大伴でございます。
1976年に農学部農学科を卒業し、その後渡米。1979年にカルフォルニア州立大学で修士課程を修了した後、アメリカのサイアナミッド社に就職し、その後スイスのチバガイギー社、そして合併により、ノバルティス社、シンジェンタ社と名前が変わりましたが同じ組織で引き続き仕事をし、最後はドイツのBASF社で働きました。BASF社を引退したのちJICAから派遣されてモロッコで2年間農業関連のプロジェクトに携わりました。会社は幾つか変わりましたが、農薬、種苗、動物薬と一貫して農業関連の業界で働きました。その間、研究、開発、技術普及、営業、マーケティングを経験し、日本の都道府県は全て、そして一時アジアの国々を担当しましたので、海外では69か国を訪問し、長期滞在した国もアメリカ、スイス、香港、モロッコとなります。
この間日本は急速な経済発展を遂げましたが、バブルの崩壊後、失われた30年に突入し、ようやく最近デフレからの脱却の兆しが見えてきましたが、GDPは世界4位に転落し、一人当たりのGDPは世界37位(IMF)となってしまいました。経済面だけでなく、特許数、科学誌への投稿論文数、そのサイテーション(引用)数、日本の大学のランキングなどの学術面での低下も、残念ながら見られます。
しかしながら、海外で外国人と接触すると良くわかるのですが、外国人の日本の文化に対する理解は高まり、それどころか国によっては愛着をおぼえ、そして尊敬すらしてくれる。これら日本へのまなざしを見ると、この間大きく改善されたと感じます。たしかに道にゴミを捨てる人は少なく、携帯を落としても持ち主のところに戻ってくる確率が高い、電車はきっちり時間通りに到着するし、人々は礼儀正しく、社会のルールを守り多くの場合他利的です。そして犯罪が少なく、小学生が一人で電車通学ができ、夜道の一人歩きもできる。これらの社会的道徳心というのでしょうか、この特徴は何年も時間をかけわれわれ日本人が築き上げてきた、整備された道路、鉄道網、ライフラインなどの物理的インフラならぬ、社会精神的インフラではないでしょうか?
目には見えにくいですが、この精神的インフラを築き上げ、勤勉でルールを重んじ、社会を良くしていこうとする思想は金額には換算しにくいですが、実は大きな付加価値であると感じています。現にインバウンドで来日した旅行者が、日本へのリピーターになっているケースは、食事が美味しい、物が安い、などとともに、日本人の社会性に感激しているからと言えるでしょう。大学である以上学術的な問題の解決の一助となるように努力するのは当然ですが、この精神的付加価値を同窓会の活動を通じて大学に生かせるよう考えていきたいと思います。
令和7年6月