前回は、国産大豆とにがりで豆腐を作る「おとうふ工房いしかわ」について、創業者の石川伸さんのお話を中心にご紹介しました。安全安心にこだわり販路を広げ、現在年商50億にもなっている会社です。
伸さんは「安全・安心」という基本精神を確立し、CSV活動へ展開するなかで人材開発を通して新しい価値の創造のできる企業体質を模索し、企業のサスティナビリティー(企業の永続性)を構築していこうと今も活躍しています。
取材中、「とうふを売るな、熱い思いを売れ」という伸さんの言葉に強い感銘を受けました。
今回ご紹介するのは、石川伸さんの息子さんご夫婦石川諒さん(共生院H28)と石川麻利江さん(共生院H29)のお話です。
お二人は、お父様のポリシーを引き継ぎ、新たな視点で事業を展開しようと頑張っている仲良しご夫妻です。
左から、麻利江さん・池谷(こうほう支援室)・諒さん
諒さんが持っているのは、小学生の時に書いた絵(社長室に展示)
Ⅱ父の意志を引き継ぐ息子夫婦のお話-「おとうふ工房いしかわ」編-
学生時代に家業を継ごうと思っていましたか?
諒
はっきりと家業を継ごうとは思っていませんでした。元々豆腐に興味がなかったわけではないのですが、豆腐があるのが当たり前でした。社長室に飾ってある小学生の時に書いた絵を見ると、家業について何か意識はしていたと思います。なので、大学も自然と農業に関連する大学を目指しました。
大学院で研究している時も、家業を継ぐという強い気持ちはありませんでした。そんな時、ある社員の方がやってきて「若!そろそろ家業を継ぐ決心をしませんか?」ということをおっしゃいました。
会社の農業を大事にしている精神は理解していましたので、「日本の農業にかかわれるのであれば」ということで「おとうふ工房いしかわ」で働くことにしました。
麻利江さんは農工大を目指したきっかけは何ですか?
麻利江
学習院女子大在学中(3年)にどうしても農業に関することを学びたいと考えるようになりました。野見山先生のやっている研究をやりたいと思い、農業市場学研究室の扉をたたきました。大学卒業後、農工大学の研究生として学んだ後、1年遅れて大学院に入りました。
野見山研では、地産地消・産直流通・市場外流通等について調査研究がなされていました。そんな中、私は生協産直・農協と生協の協同組合間協同などについて研究活動を行いました。生協組合員の心の動きにも興味がありました。特に「なんで生協組合員は農業のことまでを考えるのか」ということは、テーマの一つでした。
おとうふの世界に入ってから、おとうふが好きになったのですか?
麻利江
「日本の農業の力になりたい」という自分の軸は昔から変わっていません。
「おとうふ工房いしかわ」は農業のことをすごく考えて事業展開しています。豆腐を作るのに国産大豆を使うということも一つの軸です。この軸に沿って作られた豆腐を多くの人に食べてもらいたいと考えています。
単純においしいお豆腐を作るという事のほかに、自分が日本の農業の発展の手助けをしたいと考えています。
会社が大きくなれば、日本の農業に対して働きかける事ができるようになると思います。例えば、政策提言するとかそういった事がもっと可能になります。
本社敷地内のレストランで提供されているサイドメニューの豆腐
レストランは、地元の雇用にも一役かっています。
会社が大きくなった時に、社員全員が同じ精神でやってくれるかどうか見極めて、コントロールしていくのか大変だと思いますが…
諒
熱い思いをすべての社員に伝えることはできませんが、その方向性だけははっきりと示していきたいです。自分たちの周りの何人かは、熱い思いでいてほしい。
そのような環境を、社長(父)は作れたので、私たちも構築できるようにしたい。そのためには、自分たちが輝いていなければいけない。楽しそうにしていることや、元気でいることが必要だと思います。
今新たに取り組んでいることは何ですか?
諒
大豆ミートにいかに価値を付けて販売できるか、岩手県のメーカーと共同開発をしています。国産の大豆のおからを使用したり、タンパク質変性技術でおから豆乳を変性させたり、色々と研究しています。また、食用だけではなく例えばキノコの培地への応用なども考えています。
新しい取り組みの根幹にSDGsの考え方があります。SDGsは17個ある項目のうち、最も17番目(パートナーシップで目標を達成しよう)が重要だと思います。最初食べ物の研究開発を経て販売をして、最後消費する人達とかかわりながらパートナーシップ形成していく事が重要だと考えます。研究開発の過程でもいろいろな人とかかわって信頼関係を構築しながらやっています。
ビールも作っていますね…
諒
社長のアイデアで一人一人をテーマにしたビールを造っています。例えば、山椒の実を社員が取ってきて加えるといった具合です。愛知県中心ではありますが、インターネットや一般の酒屋でも販売しています。
子会社の安城デンビール株式会社で醸造しているビール
(https://www.youtube.com/watch?v=n-3btJIotXk)
麻利江さんは仕事のやりがいはどんなところに感じますか?
麻利江
食という分野の中で、豆腐に可能性があると考えています。その可能性にかかわれることにやりがいを感じます。
豆腐という食材的な魅力は、嫌いな人がいない。隔たりがないということに通じます。そのことで色々な人と繋がれます。
二人でぶつかり合うことはありませんか?
麻利江
ディスカッションは良くします。思ったことを言い合っています。根幹の所はお互いに理解しています。
お父様をどのように感じていますか?
諒
社長として考えていることが多いですね。
麻利江
同じ事を、諒君と社長から言われる事があります。似ているところがあると思います。
おとうふ工房はコロナ禍で大変でしたか。
諒
製造ラインよりも直営店の方が影響は大きかったです。2020年の4月5月は大手商業施設での販売が出来ませんでした。
一方、スーパーでの食材販売がなく食糧不足ということで、豆腐の購入に目が向いて逆にプラスに働きました。
消費活動の変化、特に低価格のものが求められる状況下で、値段の高いものを販売しているので、すそ野が狭まった感じはしています。しかし、一喜一憂はしないつもりです。
将来の夢は何ですか?
麻利江
世界平和を目指したいです。とりあえず自分の周りから、食とか農業を通じて周りのみんなが笑っている環境を作っていきたい。
学生さんにメッセージを頂けますか?
諒
学生時代の思い出がいっぱいあります。それぞれの時代で、その思い出を大事にして欲しいと思います。
農工大で過ごした時間は、自分の人生の中でかけがえの無いものでした。社会に出た後も自分の心の拠り所になっています。自分はアメフト部にいましたが、いまでも皆仲が良くOBが良く集まり、仲間と会うとホッとします。
諒さんと麻利江さん、伸さんへのインタビューの感想
お父様(伸さん)の「熱い心」を引継ぎ、大豆ミートの研究などの新しい展開を試みていて、開発を通して新しい価値の創造ができる企業体質を目指し、企業のサスティナビリティー(企業の永続性)を構築している姿に感心しました。
また社員教育に留まらず、食育教育の活動の中で多くの人とのつながりを大切にしていて、お父様の考え方が脈々と生きているなと感じました。
伸さん・諒さん・麻利江さんに今後とも頑張っていただき、売上100億円を達成して、地域の農業ひいては日本の農業の発展に力を貸してもらえればと思いました。また、熱い心を多くの人に伝えてほしいですね。
こうほう支援室 池谷記