一般社団法人 東京農工大学同窓会

2024.11.1 かがやく同窓生

世界に誇れるテロワール日本酒を目指して -人と人、地域と地域をつなぐ事業化コーディネーター

今までこうほう支援室池谷(農学S49)が作成した記事を多く掲載してきました。
若い人の視点での記事も掲載したいと考えましたので、今後東京農工大学若手同窓組織の「農工大NEXT」のメンバーが作成した記事も順次掲載していきます。
今回はその第一弾を掲載します。
(こうほう支援室 池谷記)

世界に誇れるテロワール日本酒を目指して
-人と人、地域と地域をつなぐ事業化コーディネーター

農工大NEXT

人と人、地域と地域をつなぐ、そして地域社会を持続可能なまちへと発展させるための事業化コーディネーター。
大学とソーシャルビジネスの両分野に身を置いて活動している林丈雄(地生H20)さん。
特に、大学時代の研究から始まった「地酒とまちづくり」に関しては、地域の中で地酒を通じた町おこしの実践を重ねられ、今後は世界に誇れる「テロワール(後述)日本酒」へと成長させることを目指している。
今回はそんな多方面で活動している農工大卒業生、林さんにお話を伺いました。

1:大学生は“ニュートラルさ”が武器

- 学生時代、授業以外ではどのように過ごしていましたか?

学内だと部活を兼部したり、千賀裕太郎先生の研究室に早いうちから行っていましたね。千賀先生の研究室は入学式が終わった後すぐに行きましたね!

      

鹿児島県の自然豊かな場所で幼少期を過ごしたこともあり、千賀先生が研究されていた水資源や農村地域の環境について興味があったのです。

千賀先生は研究者としてだけでなく、教育者としても活動されていて、私が今、大学とソーシャルビジネスの両分野に身を置いていることに繋がっています。

-学外ではどのような活動をしていましたか?

まず、ワインのテロワールについて知るため、ヨーロッパへ学部で1年、修士で半年「自主留学」しました。テロワールというのは、ある地域の気候や土壌、作物、人を含めた自然環境全てのことです。

私は昔から地酒に興味があったのですが、当時の日本では原料となる酒米を遠隔地に頼るなど、テロワールが意識されていない日本酒ばかりでした。そこで、海外に行ってテロワールの本質を学び、その知見を日本の酒造りに生かせないかと考えたのです。

他には、バイトを掛け持ちしたり、NPO法人で働いたり、ソーシャルビジネスを個人で立ち上げたりと社会人学生のようなことをしていましたね。

- こんなにたくさんの活動をどうやってこなしていたのですか?

やはりカギはタイムマネジメント力、これにつきますね。
それと、大学生は社会的立場の上で“ニュートラルさ”が武器なので、色んな活動に挑戦した時の世間の目は優しいのですよ。「これをフル活用しなければ…!」というマインドもありました。

-なるほど。では、大学時代に現在の仕事の流れを作っていたのですね。

そうですね。今こうして様々な活動を行えているのは、学生時代の自分があってこそです。

2.「市民・企業・行政」をつなぐコーディネート

- 現在、特にどのような活動をしているのですか?

大学で非常勤講師を務める、NPO法人で活動する、ジビエのビジネスを行うなど色んな活動をしています。また、府中駅南口に直結している、府中市市民活動センタープラッツの館長も務めています。酒造りに関しては、日本酒のテロワールを大切にすることで地方創生を目指しています。最近は、岩手県の大槌町で新しく源水というお酒造りに携わりました。

- なぜ岩手県の大槌町で酒造りをしようと考えたのですか?

実は今回の酒造りのきっかけは、大槌町役場の方が私の大学院時代に執筆した投稿論文を読んで、話をいただいたことなのです。論文の中身は新潟県村上市の地酒蔵「大洋酒造」と地域資源である、酒米・湧水との関係性に着目した「地域おこし酒」に関するものでした。興味深い内容なので、この町おこしの活動を大槌町でもできないかと。

– まさに運命的ですね。

ええ、私も最初はびっくりしました。なんせ十年前の論文なのですから。そこから、大槌町のきれいな湧き水に着目してお酒造りに励みました。大学時代にお酒のノウハウは学んでいたので、ただ事業をコーディネートするだけではなく、酒蔵・農家・役場など現場の声をしっかり拾うことができたかなと思っています。酒造りを通して湧き水の保全になるだけでなく、地元のPRにつながるのが地域おこし酒のいいところですね。

     

3.コーディネーターとしてのマインド

- このような事業化コーディネートにおいて大切にしていることはありますか?

そうですね、何事においてもみんなで対話し、作ること、そして長く関わっていけるそんな事業にしたいと思っています。地元の人それぞれが何かしら活動に関わっていれば、たとえ外部の人からの人気が無くなってもずっと愛される事業が出来上がりますよね?

- そのようなコーディネート力はどのように身に着けたのでしょうか?

社会というものは大まかに分けて市民、企業、行政のステークホルダーからなるのですが、それぞれの希望や考えを整理することでコーディネート力を磨きました。1つのwin-win関係だけを考えるだけでは後にぼろが出てしまいます。

- コーディネーターという仕事をする中での失敗談はありますか?

「失敗した」って思った出来事は一度もないですね、途中で投げ出さないので。でも、上手くいかない時はたくさんあります。コーディネートする相手先に不意に怒られるとかね。そういう時は、何か個別の事情があったのかもしれない、たまたまその人のコンディションが悪かったのかも、と想像力を働かせることでセルフコントロールをしています。

4.地域おこし酒の魅力を届ける

-最後にこれからの将来についてお聞きします。目標とそれにむけてどのようなアクションを起こしたいかを教えてください。

1番は、日本が世界に誇れるテロワールを意識した日本酒、いわゆる『地域おこし酒』の魅力をより多くの人に届けることです。研究で得た知識を生かすため、大学では教育者として生徒に知識を伝え、一方、コーディネーターとしては地域おこしを実現するソーシャルビジネスを展開したいと思います。