一般社団法人 東京農工大学同窓会

2025.6.5 かがやく同窓生

日本のクラフトビール作りの最先端を目指して -和泉俊介さん&髙木加奈子さんに聞く-

農工大NEXT

今、ビールの醸造に力を入れている2人の農工大卒業生がいる。和泉俊介(生制院H13)さんと髙木加奈子さん(生産H23)だ。和泉さんは自身でブルワリーを設立。髙木さんは平和酒造株式会社のビール醸造責任者として、どちらもクラフトビール作りに取り組んでいる。今回はお二方の対話を通して、クラフトビール造りの奥深さを探りたいと思う。

ビール作りに至ったきっかけを教えてください

髙木

最初は日本酒が作りたくて平和酒造に入りました。酒蔵巡りが好きだったのですが、会社に入ったことで他の会社は同業他社になってしまうため、3年間は他の酒蔵の見学をするのが禁止だったのです。見学できるのは当時平和酒造で造っていなかったビールのみ。

そこで、ビールの醸造所巡りをしていくうちにクラフトビールにも詳しくなって、自分で作りたいと思うようになりました。学生の時ももちろん興味はありましたが、専門的知見を持った今だからこそ、深く学びたいと考えるようになりました。

和泉

私は、学生時代にビールの作り方を知ったことで、まずビールに対して興味を持ちました。その後、4年生の授業に酒蔵での研修があったのですが、そこで飲んだクラフトビールがとても美味しくて、自分も美味しいビールを作ってみたいと思うようになりました。前回よりも美味しく作るにはどうするのか考えるのが楽しさの一つです。

和泉さん

ビール作りのこだわりはありますか?

髙木

やはり、きれいで美味しいものを作りたいです。自分が美味しいと思うものをつくり、それをお客様に飲んでもらう。お客様の反応からビールを改善するので、トライ&エラーはなくなりません。

和泉

私も同じビールをよりよくするために何回も作り直します。学生時代の実験と同じような感覚ですね。また、ビールにおいて大切なことは、「飲みたい」「作りたい」「売れる」ビールを作るという3つがあると考えているので、これらをバランスよく満たせるように日々工夫しています。

高木さん

ビールの美味しさはどのように判断していますか?

髙木

まず最低限の品質が担保されているかどうかが大切だと思います。微生物がいないか、発酵の過程がきちんと進められているかをチェックします。また、ビールの美味しさのジャッジをする国の資格があるので、資格を取る際にベースの香り、お酒の良し悪しの見分けを学び、判断がつけられるようになりました。

和泉

やはり、自分で作ったビールを飲むことで美味しさを判断しますね。しかし、人のセンサーはそれぞれ違うので、いろんな人から感想をもらっていく中で自分とのギャップを見直すことも大切にしています。また、美味しいか美味しくないかだけでなく、好きか嫌いかという軸もあると思っているので、その二軸を中心に判断しています。

作ったビールはどのように飲んでほしいですか?

髙木

どのように飲んでほしいかというより、お客様の飲んでいるビールの減り具合が結果として分かるので、その結果から試行錯誤することが多いですね。ビールの減り具合がいつもより悪いと感じたら、どこか改善すべき点があるということなので。

和泉

私はどこで飲んでもらうかに重きを置きます。お店の外で、家で、色んな場所で飲めることがビールの可能性を広げられるのではないかと。『グラウラー』というビールを持ち運びできる容器を用いて、量や種類、場所を自分で選んで飲んでもらうことが理想です。

今後やっていきたい事を教えてください。

髙木

身一つで原料と熱源さえあれば世界中どこにいてもお酒を作れる技術者になりたいですね。ただの原料の組み合わせでお酒を生み出すのではなく、自分が納得いく形で作りたいです。また、ビールと日本酒は細かい製造過程は違いますが、そう大きく違わないと考えているので、どちらかを極めるというよりかは、どちらも作れる人になりたいです。

和泉

私は今、一人三役で仕事をしていてそれぞれで目標があります。三役とは会社員、経営者、醸造者です。会社員としてはアイデア豊富な管理職に、経営者としては会社をより良い方向へ、醸造者としてはビールだけでなく日本酒を造ることがゴールです。

《編集後記》
クラフトビールを造るということは機械まかせではなく、”人”がいてこそ成り立つものだと感じました。原料や工程一つをとっても味に違いが生まれ、唯一無二のビールができあがるのだなと現場に足を運び、お話を聞くことで実感できました。試飲させていただいたビールは(人生初ビールなので比較は出来ませんが)それぞれ個性ある味わいで造った方の意思が感じられました。興味がある方はぜひ試してみてください。