一般社団法人 東京農工大学同窓会

2023.6.6 がんばる在校生

新潟の棚田で米作り…里山の保全…

令和4年の学園祭で、お米を売っているテントがありました。学生さん数人と、新潟からやってきたと思われる農家の方が、道行く人に声をかけていました。

なんでも、本学の学生さんが新潟の棚田に通って稲を育てて、その米を袋詰めにして販売しているとのことでした。

全国の里山が荒廃していく中、棚田もご多分に漏れずに耕作が放棄されてきています。棚田は規模も小さく傾斜地に存在することで、物質循環の維持に多くの労力を要します。そのことが、保全をさらに難しくしている状況です。

そのような状況の中で、本学の学生さんが棚田で米を作っている背景と、活動の状況に興味がわきました。その場で取材をお願いしたところ、日を改めてお話を聞くことになりました。

インタビューをしたのは、戸倉 季紀さん(食農情報工学コース修士2年-取材当時-)さん、内野 僚太さん(食農情報工学コース修士1年-取材当時-)です。今回はその取材の様子をまとめてみました。

一番右が戸倉さん、一人置いて内野さん

お名前と学科と何年次なのかをおしえてください。

戸倉
戸倉 季紀、食農情報工学コース修士2年です。
内野
内野 僚太、食農情報工学コース修士1年です。中央大学から農工大の大学院に進学しました。

中央大学にはこの分野の学科があるのですか?

内野
中央大学の法学部で地域作りの関連について研究していて、農村地域の問題について興味がありました。

本学に進学する際に、どんなことをテーマにしましたか?

内野
都市農村交流をテーマにしています。都市の人が地方に移住する動きを促進したい
と考えています。具体的には、例えば、グリーンツーリズム(観光をしながら農業を学ぶ等)の活動の在り方などを考察したりしています。
滋賀県甲良町では、水路を守っていく活動をどう維持していくのかというテーマがあります。単なる水路としてではなく遊べる空間として、水路を公園として整備していたりします。

グリーンツーリズムは大きな波にはなりにくいですが、人が田舎に足を運ぶことは重要だと思います。

内野
自分もそう思います。         

棚田塾はいつから活動していますか?

戸倉
8年前くらいからです。

そのきっかけは何ですか?

戸倉
農工大の中島正裕先生の研究室では、農村地域計画学という研究をしています。その当時、研究室に在籍していた桒原さん(現在山形大学)が十日町に農村調査に入ったのがきっかけでした。今も棚田塾は中島研を起点にして活動をしています。

棚田塾で活動している人はどれくらいいますか?

戸倉
今は地域生態学科を中心に6人くらいです。男女比率は5:5です。

棚田塾はサークルではないと聞きますが・・・

戸倉
そうです、自発的なグループといった感じです。中島研究室を母体にしていますが、もう少し活動を広げたいと考えていますが、なかなか難しいです。

現地農家の人も活動に加わっているようですが・・・

戸倉
もともと地域おこし協力隊の方で、その方を中心にして活動をしています。十日町に東京から移住した方です。桒原さんが、その方を研究対象にしたことがきっかけとなり、以降ずっと繋がっています。

棚田塾はお米作りがメインなのですか?ほかに何か活動をしていますか?

戸倉
現地でお米作りをしています。

棚田で米を作る目的は何ですか?

戸倉
自分たちの研究室では、地域活性化について研究することだけではなく、現場で農業を体験することが重要だと考えています。

年に何回くらい棚田に足を運んでいますか?

戸倉
今年はまだ2回です。田植えの時と収穫の時です。それぞれ、土日で一泊二日の活動をしました。
代搔きや除草もやりたいと考えていますが、交通費がなかなか捻出できないことが残念です。許されるのであれば、もっと足を運びたいと考えています。

お米はどれくらい採れますか?

戸倉
コシヒカリで、120kgくらいです。手植えで植える感じです・・・収穫は手刈りで天日干しです。はざ掛けまでの作業になります。

どれくらいの面積をやっていますか。

戸倉
棚田の田んぼ一枚(10アール未満)です。お世話になっている農家の方が、ほかの農家の方から借りて稲を作っています。その方は地域連携を推進している集まり(棚田を守る会)のまとめ役をなさっています。地域おこし協力隊員の受け入れ等もやっています。

その地域の社会活動に触れ合うことはできましたか?

内野
例えば、田植とか稲刈りの合間に棚田を維持する水源を見たりして、棚田の成り立ちを理解することに役立てたりしました。水の繋がりは人間関係に影響すると思います。

棚田にかかわっている農家は何軒くらいですか?

戸倉
集落の方としては3軒くらいです。十日町全体での棚田の取り組みをしている農家は10軒くらいです。それらの方々は専業農家ではなくて、リタイアされている人たちも多いです。

一般的に棚田は規模も小さくて、米作りにも手間がかかりますが、里山の保全という意味では重要だと考えますが・・・

戸倉
保全という意味では、生態系の維持の観点からも重要だと思いますが、棚田を維持している人たちの高齢化は大きな問題だと思います。
全国的にも農業の担い手不足の問題が大きいですが、棚田を守る活動を通じてこの問題にも取り組んでいきたいと思います。

活動を通じてよかったところは?

戸倉
地域の人の顔を良く見ることができたことです。研究室の考え方でもありますが、活動を通じて地域に還元していくということが重要だと考えています。顔が見えてくるとよりその思いが強くなります。

今後の棚田塾をどのようにしていきたいですか?

戸倉
今後も継続していきたいと思いますし、もっと人を増やしたいと考えています。単なる労働による支援ということではなく、現地の人達との交流を深めたいと考えています。

今後の進路についてはどのように考えていますか?

戸倉
今やっていることは続けたいと考えています。就職というより、ボランティア活動として継続したいと考えています。

今後も棚田塾の活動を見守りたいと思いますし、可能であれば現地での活動を取材させていただけたらと考えます。
今回のインタビューで一番感じたことは、学生が色々な社会的活動をしていく際に、経済的な問題がかなり大きいということでした。年に2回しか現地に入れないと、地域の人達との交流が十分に行えないという事になります。
経済的な問題はすぐには解決できないと思いますが、棚田塾との情報交換を通じて今後とも協力できればと思いました。

こうほう支援室 池谷記