一般社団法人 東京農工大学同窓会

2023.6.9 がんばる在校生

農と工の魅力を融合させたクラフトビールを作る

皆さんは「農工大ビールプロジェクト」を知っていますか?本学を特徴づける「ブルーベリー利用」と「超音波熟成技術」といった、農学と工学の魅力を融合させたクラフトビール作りをしているプロジェクトです。

本プロジェクトは、本学の博士人材教育プログラム「卓越大学院プログラム」を発端に、同所属学生の松村圭祐さん(代表)と荒田洋平さんによって立ち上げられました。卓越大学院プログラムでは、学生それぞれが農学や工学の知識と強みを生かしながら協働し、自分の内にある創造性を発揮して、仲間と共にビジョンを共有しながら取り組む研究プロジェクトをサポートしており、「農工大ビールプロジェクト」もその一つです。

本プロジェクトでは、クラフトビールの新製法開発を目的として、農工融合の技術として「超音波熟成フルーツビール」の可能性が探索されました。さらに、研究を研究で終わらせず、商品として社会でテスト販売するところまで、一貫して実施されました。
            
具体的には、ブルーベリーの選定、ビール原料にするまでの加工方法の検討、ビールに対する超音波照射の効果検証、大型の醸造タンクに対応した超音波装置の開発などが行われています。

また、これらの研究は卓越大学院の松村さんを中心として、農工大OBOGの農家・醸造家、近隣地域の飲食店・スーパーマーケット・自治体などが協力するオープンイノベーションによって推進されていることが大きな特徴です。

ブルーベリーは農工大の故岩垣駛夫農学部教授により、日本国内で最初に研究が開始されました。現在ビールに必要なブルーベリーの確保は、岩垣先生の教え子である島村速雄さんが運営する島村ブルーベリー園(東京都小平市)のご協力を頂いています。

ビール醸造に関しては、同じく農工大卒業生である和泉俊介さんによる醸造技術をもとに、短期熟成を可能とする超音波熟成技術を組み合わせ、香りや味をビール内に分子レベルで短時間に拡散させ、まろやかな風味を実現しました。

そして、これらの技術を統合して出来上がったクラフトビールを魅力的に見せるためのコンセプト作り・情報発信・営業は、学部生も含めた農学工学混合の学生チームの協力で進められました。

今回は、そんな学生チームで中心的に活躍されている若杉隼希さん(地域生態システム学科3年)にお話を伺いました。
 

若杉隼希さん

どうしてこのプロジェクトに参加しようと思いましたか?

若杉
はじめは単に面白そうだと感じました。学んだ技術を実際に使って世の中に製品を出すということが実感できるのが面白いと感じました。

このプロジェクトの設立はいつですか?

若杉
代表の松村さんを中心に、2021年の5月頃に設立されました。卒業生でブルワリーを経営している和泉俊介さんのご協力を得ながら醸造を開始して、秋には販売できるようになりました。

和泉さんとはどういうきっかけで知り合えたのですか?

若杉
私は松村さんからの紹介で知り合いました。松村さんと和泉さんは、実社会の課題解決を目指す卓越大学院の講座「グローバル卓越リーダー概論I・II」において、ビール作りで大量に廃棄されるモルト粕の有効利用方法を一緒に考えたところから知り合ったと聞いています。

今活動している人は何人くらいいますか?

若杉
研究代表の卓越大学院生である松村さん、荒田さんのほか、中心的に活動している学生メンバーは9人です。アルコールを扱っているので20歳を超えている学部2年生以上が参加しています。募集するときの条件で20歳以上という形で募集しています。

プロジェクト運営の特徴は?

若杉
全体コンセプト設計と研究開発は代表の松村さんが中心に行うのですが、商品コンセプトや発信方法を中心的に考える学生メンバーは毎年変えていこうと考えています。これは新しい学生の柔軟な発想と、「去年の先輩よりも面白い商品コンセプトを作ってやるぞ!」という強くて純粋な原動力によって進化し続けるプロジェクトを実現することが目的です。それをOBOGや先輩がサポートする形で運営しています。
また、このような挑戦を後押しする仕組みによって、多くの学生に成長機会とつながりの場を提供していくことも目的としています。

超音波照射にはどのような効果がありますか?

若杉
熟成を促進させる効果があります。ワインでの利用が有名ですが、ビールでの商品化はまだされていません。超音波によって内容成分を分子レベルで分散させ、口当たりを改善する物理的な熟成効果が期待できます。また、発酵段階では、溶存酸素、過飽和CO2の脱気など、発酵を活性化する働きも報告されています。この技術をビール作りに応用するため、独自の大型超音波装置を開発しました。

フレーバーとしてのブルーベリーのほか、ビールの原料はどのように調達しているのですか?

若杉
モルトとホップに関しては、和泉さんにお願いしました。ブルーベリーは量的な問題もあり農工大の農場産ではなく、小平市の島村ブルーベリー園(農工大学卒業生の島村さん経営)のブルーベリーを調達しました。

ビールは作り始めてからどれくらいでできますか?

若杉
1か月くらいでできます。

学生のメンバーはどのような作業をしているのですか?

若杉
商品のコンセプトを練り上げ、どんな味の方向性を目指し、どんなデザインに仕上げ、どこにどうやって情報発信するかなどを議論しています。特に、「農工大の魅力を伝えるにはどうしたら良いか?」をいつも話し合っています。また、販売店舗への営業や、ビール製造の手伝いなども行なっています。

1回にどれだけ作るのですか?

若杉
実際の醸造タンクのサイズにおいて、本技術の有効性を検証する必要があるため、600リットルの製造テストをしています。瓶(340ml)で約1500本分です。
                 

普段の活動はどんなことをしていますか?

若杉
今は生産がひと段落したのでゆっくりしていますが、テスト販売が始まる頃は毎週木曜日にZOOMで方針を決めて、具体的な作業を行うようにしています。
定期的に活動しているというよりは、仕込む時期と営業・販売している時期に、集中的に活動しています。

売上はどのように扱うのですか?

若杉
本プロジェクトの運営資金は、卓越大学院における教育プログラムの一環で、卓越大学院学生の協働プロジェクト提案への支援経費として支出されています。そのため、売上は大学に帰属し、他の支援事業などに循環的に活かされています。

若いうちに色々な人と交流を持ち、多くの経験をしてこれからも頑張ってください。

若杉
ありがとうございます。

インタビューを受けてくれた若杉君によると、本プロジェクトでの経験を自主的に発展させて「多摩クラフトビール祭り」という計画をしており、多摩地区にあるブルワリーと販売店が集まって、各クラフトビールを紹介する祭りを開催したいと考えているとのことでした。
大学内だけでの活動ではなく、広く地域連携にも視野を広げていて、たくましさを感じました。

こうほう支援室 池谷記