福羽イチゴ(ふくばいちご)は、日本で開発されたイチゴの品種としては最初のもので、「とちおとめ」「あまおう」「とよのか」「さちのか」といったイチゴの品種の先祖にあたります。
明治時代に、福羽逸人は新宿植物御苑(現新宿御苑)でフランスのイチゴ品種「ゼネラル・シャンジー」から10年以上をかけて開発を行い、1899年に新品種「福羽イチゴ」として発表しました。
福羽イチゴは皇室献上用であり御苑イチゴや御料イチゴとも呼ばれていましたが、1919年には一般市場での栽培が許可されるようになり、日本中で人気となりました。甘さも香りも強い福羽イチゴは1960年代までは高級品種として人気がありました。
この度創基150周年記念事業のうち新宿御苑との共催企画の一環で、新宿御苑で今でも栽培されている「福羽イチゴ」の苗を譲っていただき、農工大の温室で育てることになりました。実を収穫してジャムを作る計画です。
今回は、2023年6月21日福羽イチゴの植え付け作業中の、園芸学研究室の髙橋さくら先生(生産博 R3)にお話を伺いました。
当日は、園芸学教室の鈴木栄先生、学生広報スタッフ、園芸学研究室の学生さんと大学の事務職員も参加していて、賑やかに作業をしていました。
作業をしている髙橋先生と施設の様子
福羽イチゴは今のイチゴと比べて、外見上どのように違いますか?
髙橋
葉っぱが小さいのが特徴です。実も少し小さめです。
昔は全国で栽培されていたと聞きますが・・・
髙橋
1960年代までは広く栽培されていました。その後、改良が加えられ多くの品種が市場に出回っていますが、元をたどれば福羽イチゴということになります。現在では福羽イチゴはほとんど栽培されていません。
新宿御苑からは何株ぐらい譲ってもらったんですか?
髙橋
去年の8月に有江先生(150周年記念事業担当理事)が15株くらいもらってきました。その親株からランナーが出てきて、多くの子株を作ることができました。今日、その子株の植え付け作業をしています。
福羽イチゴの子株(植え付け後)
有江理事から園芸学教室が頼まれたという形なんですか?
髙橋
園芸学教室は協力していますが、教室でやっているという形ではありません。この場所は園芸学教室の所有ではなく、教育利用のための水耕栽培施設です。
最初にこの企画の話を聞いた時どのように思いましたか?
髙橋
生食用の果実を取るのは難しいと思いましたが、ジャムにするのであればできるかなと思いました。
自分もイチゴを栽培していますが、葉っぱが大きくなりすぎたり、実を鳥に採られたりして難しいです・・・
髙橋
夏の時期はどうしても葉っぱが大きくなる傾向があります。外で栽培するメリットはありますが、鳥害対策等は必要になりますね。
イチゴの栽培は見た目の良い果実を実らせようとすると、難易度が高いと思います。多くの実を採りたいのであれば、親株からランナーが出てきたら、その子株を栽培したほうが翌年に多くの実を取ることができます。ただし翌年は、親株の成績は下がってくると思います。
受粉の作業はどうしているんですか?
髙橋
昨年度はあまり多くは実をつけさせなかったのですが、今年は学生広報スタッフが耳かきの梵天部分で受粉作業をしています。
学生さんは学生広報スタッフだけでやっていますか?
髙橋
今日の植え替え作業は、一人だけ園芸学教室の学生が指導係として入っています。
授業の関係もあり、なかなか学生さんが作業できませんが、朝の水やりとか見回りという作業は、授業開始前に学生広報スタッフがやっています。これから自動潅水を設置するので、少しは楽になると思いますが、植物は毎日観察する必要があります。
植え付け作業風景
自動潅水装置の設置
今植えているポットの素材は何ですか?
髙橋
不織布で、適度に水分を保ってくれます。培地はヤシ殻で、肥料分は液肥で与えています。
ポットと培地
今植え付けしている株でどれだけの実が取れますか?ジャムを作ると聞いていますが・・・
髙橋
今植え付けしているのが100株以上ありますが、この部屋いっぱいになるくらいに増やした方が良いと考えています。実も小さいので頑張って多くのイチゴを栽培したいと思います。
秋から収穫が本格的に開始されますが、ジャムということもあり収穫したら冷凍して保存します。今も花が咲いていて、すでに収穫しているイチゴは冷凍保存しています。
今年の4月は雨も多く、また気温も低かったので病気等の防除対策が大変でした。
ハッケンコウケンとイチゴの実
夏も収穫出来るんですか?
髙橋
原則暑い時期は収穫しません。実もほとんどできませんが、原種に近いというところもあり四季咲き性については、あいまいなところもあります。
目標の収穫量はどれくらいですか?
高橋
最低20キロを目標としています。